「社名のことなんやけど、農業の“農”に樹木の“樹”って書いて、“ノウジュ”って読む、どうよ?」
と聞くと、少し思案顔をしたアイツが、
「いいね、クマさん。“のうじゅ”、響きがいい。そうや!英語表記はnoujuやなしにnohjuやで!」
そして、気持ちが入り込むと会話の途中で泣きっ面になる癖があるアイツが、
「ノブレス・オブリージュって言葉知ってる?知らんの、まあいいわ、フランス語やで。尊い目的のためには命を奉げるような生き様っていうのかな、騎士道の精神らしいわ。ジェントルマン・シップに繋がるんやで。私達の生き様を見て、感じてくれた人の中にな、いつか“ノウジュ”から“ノブレス・オブリージュ”を連想してくれる人が現れる。私はそう思う。」
ノウジュをノブレス・オブリージュに繋げるには少々無理がないかと茶化す私に、口の周りをびくつかせながら、アイツがさらに強く、
「いつか現れるって!そう思うときましょ。」
と言ったその20年後。つい最近、息子が輸出に関わるある面談で大阪へ行った時のこと。
夜逃げ寸前の壮絶苦労話から、我が社の生い立ちや商品、そして自身のことを説明しながらあれこれアドバイスを受けるうち、お相手からこう言われたのだそうだ。
「ノブレス・オブリージュという言葉がありますよね。ノウジュはそれをもじったものですか。欧米に打って出て行かれた時、関連付けて語られるとすごく良いではないですか。」
あぁ…。
まさにこんな、この時、この場面、どうせアイツが誇らしげに、
「私が言った、ほら、あの時“わ・た・し”が言った、“わ・た・し”が言う~た通りに現れた!へっへ~、イエーイッ!」
と来るわけで、どうせ黙っていても何を言おうが、何度もしつこく、“わ・た・し”が言う~た通りやった!とほざいて、終いには意味不明のダンスでもしやがるアイツに、
「ありがとう。」
と言っておく。しかし、どうせ追い打ち駆けて、
「目指せジェントルマン。私はすでにレディやけど、な。」
とでも、ほざくだろうね。はいはい、The way to a country gentleman spreads out.
About 農樹
NHKの「ドラマスペシャル・白洲次郎」。2009年に放送されたこのドラマで、伊勢谷友介演じる白洲次郎のケンブリッジ留学来の親友が彼に語った台詞に痺れたあの頃。そういう男になろうとしていたはずだったと思ったことを思い出し、もう一度あの一言一句を確かめたくなりDVDを買って観て、またまた痺れる。
感情を表に出すのはジェントルマンにふさわしくない。
狂熱と喧騒がすべてを奪い、本質を見失わせる。
喧騒から遠く離れて心は開いたまま、
未来へ思いを巡らせる。
誰かが戯言を言えば勇気をもって指摘する。
それがカントリージェントルマンの役割だ。
カントリージェントルマンへの道は、農樹の道。平素はつつましく穏やかに暮らすけれども、事においては烈火の如く駆けて行きそれを成し遂げる。ぶれること無い信条を持った毎日を送って、その時の力を培う。我が社の社是にしようか?
ここぞという時のために重ねて行く一日、一年は幸せだ。農樹の志、実現に向けて壁を、そして天井を突破して行こうじゃないか。(株)農樹設立1周年を迎えた今、思う。