曇りのち、晴れ間2

テーマ:農民/くま語録

マサオさんの一件で大笑いしていると、息子が窓の外を差して、
「あっ、ツギオさん。ツギオさんがバイクで来た。」
と、言うので、外へ出て行くと、バイクにまたがるツギオさんが、我が家の奥の作業場の方へと進んで行く。
「ツギオさーん、どうしたん?」と、呼び止めれば、いつも飄々とした83歳か84歳になるそのおっちゃん、
「あー、やっと出会えたでよー。」
と、金を紙に添えて差し出す。金に添えられた紙は、この朝方6時30分、私がポストに投げ込んだ稲苗代金の請求書。投函から何と、1時間半後に支払いに来 てくれるとは、ツギオさんの性分。このおっさん、何事も先回りして、後回しにすることを嫌う性質で、常に先のことが気になるようだ。

毎年のことながら、ツギオさんは、4月に必ず3度、種まき作業の現場にやってくる。
「種まきしよってんかい?ちょこっと覗かせてくれよぉ。」
と、言うや否や、場内を徘徊し始める。
「おー、上手に播けるもんじゃなあ。」「苗は連休にできるかい?」「娘たちが帰ってきて植えてくれるんじゃ。」「5月の3日に取りに来たらできとるかい?」
毎年同じ事を呟き、うろうろするから、次に何を言うのか分かっている。次は、自分は年寄りだから、もう田んぼは作りたくもないけれど、娘たちが、連休には必ず田植えに帰るから、作れ、作れというもんで、また今年も作るのだ、と。そして、ほら来た、
「ここの米はうまい、うまいて言うてくれるもんじゃでな。」
と、本来米作りが大好きなおっさんなのだ。我が息子も、今年は、出入りするおっさんたちの、人となりが分かってきたとあって、このツギオさんがやって来ると、ニタニタしている。

「苗代払いに来たんじゃ。振り込みはじゃまくさいでな、金受け取ってくれ。釣りはよいでなぁ。」
と、言うので金額確かめると、千円のお釣り。
「ツギさん、あかん、あかん、お釣り受け取ってくれ。ほら千円。」
と、言っても聞く耳持たず。
「よいでぇ、釣りはいらん。お前がそれで一杯やっとくれ。頼むで、釣りは返さんといてくれ。それより、良い苗作ってもらって、こっちは喜んどんじゃ。頼むでよー、わしが生けっとる間、苗作っておくれよぉ。」
と、ほらね、おっさん、米作りが好きなのだ。
ツギオさんが置いていった千円を「お前にやる」と、息子に手渡しながら、その様子を話せば、また、
「わははー、ひーっ」
と、笑いが起きる。
「くまさん、ツギオさんね、何回か来てたよ。バイクが入っていったなあって見てたら、裏でぐるぐる回って出て行って…。くまさんが帰るまでに3回くらい、入って来ては、ぐるぐるして出て行った。」
「わははー、ひーっ」
「そうか、それでツギさん、さっき、やっと出会えたでよーって言ってたわけね。」
「わははー、ひーっ」
と、二人で大笑い。

To be continued

プロフィール

くま語録

くま

京都北部・綾部市物部地区で米を育てつつ、「農樹」を育てる農民。通称:くま
中津隈俊久(なかつくま としひさ)
’64年生、福岡県北九州市出身。
自作自演プロジェクト「農民パラダイス計画」のリーダー。

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