雨のち曇り

テーマ:農民/くま語録

農繁期真っ只中、5月半ば過ぎ、17日を境に、心の中は、雨のち曇り。この間、書き物をする気が全く失せていた。
17日未明、前ぶれも無く突然、政治さんが逝ってしまった。前日の夜まで、家族と談笑しながら夕食をともにしたそうなのに、翌朝、体は冷たくなっていたと…。
政治さんの息子が、私と同い年の直輝ちゃん。町内で一番仲良く、再々一献酌み交わす間柄。その親父の政治さんもまた、私が親友と呼ぶには語弊もあるが、町内で最も愛すべき年輩者だった。
政治さんの日課は、ウオーキング。すたすたと歩くこと1時間以上、時には日に2回。そのコースたるや相当たる距離で、今から思えば、方々にある私の田んぼ の見回りをしてくれていたかにも思える、ウオーキングコース。野外作業に勤しむ春から秋にかけて、私が、どこの田んぼで仕事をしていようと、出会わない日 は、まず、無かった。
トラクターに乗っていると、道の上から、「おーい」と声をかけ、手を振り、その仕草でエールをおくってくれていることが良くわかる。草刈りに疲れ、あぜ道でへたばっていると、「きばっとるなぁ」と、寄り道をしてくれては、会話が弾む。
片っ端から資格を取得して、会社経営をし、引退後は悠々自適の76歳。努力で人生を切り開いて生き抜いたという自負を感じさせる政治さんとの会話は、いつ も小気味良いものだった。ゼロから経営を成り立たせることを経験したからこそ、同じくゼロから始めて、今に至る私の、経営者なりに持つ辛さや悩みを、分析 して、言い当て、そして最後には「きばらんなんっ、のぉ、くまさん」と、励ましてもらっていたものだ。
また、大好きな釣りから帰るや、ひょっこりと現れては、「おーい、釣れたでよ。食えや。」と、いつもその釣果をおすそ分けしてくれる優しいおっちゃん。妻も息子も大好きで、いつまでも元気でいて欲しい人だと、常々話していたのになあ…。
雨降る葬儀の翌日から、心に鞭打ち、田植え完了に向けて、最後の追い込みに入るも、トラクターを動かし、また、田植機に乗っていても、その先に、凛として スタスタ歩く政治さんの姿があるように思えてならず、思わず目が曇る。どの田んぼに入っていても、これまで、そこから政治さんの姿を見かけて、「おーい」 と、声かけ合わなかった田んぼは1枚も無い。
「おーい、きばっとるな、息子も向こうできばっとったでよ!」と、手を振っていそうで…、「今年も5月のうちに、田植えは終われそうか?」と、聞こえてきそうで…。
この先もずっと、私がどの田んぼにいるときも、思い出すに違いない。
背筋を伸ばしてスタスタ、スタスタ。十分努力した人生だと言わんばかりに、スタスタ、スタスタ。真っ直ぐに生きたぞ、と言わんばかりに、スタスタ、スタスタ歩く、あの姿。

5月30日、本年、田植え終了。
「おーい、まさじさーん。今年も5月のうちに、田植え終わったぞー。」と、叫べば、「よう頑張ったやぁ、でものぉ、くまさん、あそこの田んぼのぉ、水が干上がって、のぉなっとったでよぉ。」と、聞こえるような気がする。

5月31日、ここまで書いて、ブログ更新するはずが、気持ちは曇ったままで、気も進まず、そのまんま。
しかし、6月2日、今日は雲が少し、切れ、晴れ間が出てきたので、アップです。

プロフィール

くま語録

くま

京都北部・綾部市物部地区で米を育てつつ、「農樹」を育てる農民。通称:くま
中津隈俊久(なかつくま としひさ)
’64年生、福岡県北九州市出身。
自作自演プロジェクト「農民パラダイス計画」のリーダー。

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