畦草刈りの合間、
「うわーっ。」
と、大声を張り上げ、背伸びに、ストレッチをして、その場にへたり込む。草刈りの大切さは重々解っているものの、非生産的で辛いこの作業が好きな百姓がいるはずも無い。
「あっつー。くそーっ。」
「あーっ、しんどー。」
天高く大声でも張り上げて、命のベクトルを上に向けておかないと、お天道さんに照らし、熱せられ、勢い増す大地のエネルギーに、自分が融かされ、ここまま、土と化してしまいそう。決して大袈裟ではない、半端でない夏の草刈り。
もしもそんな私に、どこから来たのか、日傘を手にしたマダムが、
「青田広がる美しい日本の夏の到来、ね。」
なんて、呟こうものなら、乗りつけた乗用車をひっくり返してやろう。
「うわーっ。」
上を向いて、もういっぺん叫んでやる。あちこち、向こうの畑に、小さく見えるご老体。ゆっくり動いているようだが、どうせ聞こえてやしない。
ふと目の前に田んぼに目をやると、すぐそこの稲にトンボがとまっている。風に吹かれて、半球を描くほど稲が揺さぶられているのに、その先にじっととまっている。
「お前に聴覚は無いんだよなぁ。」
「うわーっ。」
青空のもと、大声出すと気分は爽快。