愚直

テーマ:農民/くま語録

春先から調子がおかしかった左腕は、紛れもなく腱鞘炎。肘の先、手をぎゅっと握り締めるとぐいっと盛り上がる筋肉が痛い。草刈りや肥料の撒布といった重労働を一日通して続けることができない。そして、この蒸し暑さ…。
ここひと月、辛いどころの騒ぎじゃねー。ブログの更新?冗談じゃねー!野良仕事から帰れば、キーボード叩くのも仕事がらみの必要最小限に抑えつつ、明日の ために温冷浴と低周波電気治療器にマッサージ、そして仕上げの湿布を施し明日を迎えなければ、半日と持ちこたえてはくれない俺の左腕。
そこへ来て、本来春先に田んぼに撒いているはずだった肥料の山が目の前にある…。雨の連続だったこの春、本来トラクターに取り付けた機械に放り込んで撒く はずだった肥料が大量に残っている。左腕の状況からすれば、その量が量なだけに断念しても稲たちから恨まれることも無かろうが、そこは頑固一徹、プロ魂が 許さない。そして、大和魂が許さない。サッカー日本代表の活躍を!と願をかけて、お百度詣りならぬ、数百度担ぎだい。
我が家の肥料の山を崩すべく、意を決したのは、田植え終わらぬ5月末。代表批判高まる中、
「くそたれ日本人め、雑魚の如く踊りよる。批評や批判…、誰かが言い始めたらすぐに同調する雑魚どもめ。日本の代表に選ばれし若者を無為の心で応援できんのかい!」
というふうに愚直な俺の心が叫んだ。
背負っては撒き、撒いては草刈りと、牛馬の如く働き、
「馬鹿だなあ。」
と我が体が愚痴を吐きつつ、また背負ううち、日本代表がいい顔して帰ってきた。その後の番組出演でもいい顔、顔…。
「よかった、よかった。」
と思ううち、我が家の肥料の山もようやく無くなり、腕の痛みも時には忘れられるくらいになっていた。

昨日は、野外作業から暫く遠ざかっていた息子が、次に控える肥料の撒布作業に参加してくれ、
「これはかなりハードな作業だねぇ…、ひと月大変だったねぇ。」
と汗まみれの顔で労いの言葉をかけてくれるので、嬉しく感じつつも、今と先日までの愚直な労働の違いを、
「おう、昨日までこれの4倍背負って撒いとった。」
と言うと絶句していた。
「それって、全部で何キロ?」
「んー、6,000キロ?」
「って、6トン…、まじかよ。」

プロフィール

くま語録

くま

京都北部・綾部市物部地区で米を育てつつ、「農樹」を育てる農民。通称:くま
中津隈俊久(なかつくま としひさ)
’64年生、福岡県北九州市出身。
自作自演プロジェクト「農民パラダイス計画」のリーダー。

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