曇りのち、晴れ間1

テーマ:農民/くま語録

昨日の早朝、いつもより遅れて、私が係りをしている水利組合の揚水ポンプのスイッチを入れに行くと、その近くに住んでいるマサオさんがうろうろしていた。 いつもなら遅くとも6時までにそこへ行くのだが、この日に限って、この春、稲苗を販売した先々の家のポストへ、請求書を投げ込みながら向かったので、7時 頃そこへ到着。つまり、どうも、マサオさんは早朝1時間近く、私の到着を待っていたことになる。
常日頃、大変お世話になっているマサオさんは、我が息子評するところ、「癒される爺ちゃん」、なのだそうだ。さもあらん…。飾り気もへったくれも、全く あったもんじゃない。5月というのに肌寒かった、ついこの間まで、ドテラを羽織って、キャップをかぶり、足元は長靴といういでたちで、畑や近所を徘徊、こ てこての地の言葉でまくし立てる強気のおっさん、79歳。過の政治さんとも馬があっていたようで、これまた私と我が家族の、愛すべきおっさんが、マサオさ ん。
この朝は、私の姿を見つけるなり、
「おー、お前を待っとんたんじゃー。」
だと…。なぜかと聞けば、
「トラクターの使いようが、どうも、わからんのじゃ。」
と、いうではないか。近年、めっきり足腰が弱ったせいでリタイアしたとは言え、数年前までバリバリの専業農家だったおっさんが、農家のシンボルの使いようがわからん、とは…。思わず、
「ボケてきたわけじゃ無かろうなぁ」
と、つぶやいてしまいつつ、
「ここと、ここをこうして…。ここに気をつけたら、いいよ…。」
と、デモンストレーションしてみせると、
「おお、おお、そうじゃ、そうじゃのぉ、思い出したでよぉ。」

そして、
「くまさん、待っとれよ。お前がおるうちに、わし、運転するでのぉー、見とってくれーや。」
と、帰ろうとする私を制止する。バリバリー、と、ディーゼル音を響かせトラクターが動き始めると、喜々たる笑みを浮かべ、そのうち、久しぶりの感覚に陶酔の表情になるおっさん。しばらくして、見守っている私の姿が再度目に入るや、
「おお、お前、帰って良いでよぉ。おっきにー。」
です、と…。ああー、マサオさん。そして、もうひと言。
「ボケて来よるわけや無いでのぉー。物忘れがひどーなって来ただけやでよぉー。」
です、と…。ああー、マサオさん。
家に帰ると、午前8時。通学前の息子にことの顛末を話せば、
「それぞ、マサオさんって感じで、いいよねぇ。わはは、ひぃー。」
と、そっくり返って大笑い。
あーあ、愛すべき我が友よ。
To be continued

プロフィール

くま語録

くま

京都北部・綾部市物部地区で米を育てつつ、「農樹」を育てる農民。通称:くま
中津隈俊久(なかつくま としひさ)
’64年生、福岡県北九州市出身。
自作自演プロジェクト「農民パラダイス計画」のリーダー。

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