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農業生産法人 株式会社 農樹

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農樹通信

2004年 夏

照りつける太陽
温暖化のせいか?
稲は生育良好だが
人間様にはちときつい

開いた口が閉まらない

気が狂いそうになるくらい暑い夏、午前8時。田んぼの見まわりや草刈りの移動中、府道添いの電光掲示板の気温表示はすでに33℃。11時には36℃。もうこれだけで嫌になる。「こんなところで草刈りしてたら体に悪いから、また明日…。今日は水当てだけやっておこう。」などと言っていると、草刈りがいっこうに進まない。田んぼが干割れてくると水も先へ進まない。「6時ごろから水を入れ始めたから、もう向うまで行きついたやろ。」と思い歩いてみるが、まだ水は行き着いていない。「この暑さの中、俺ってどれほど歩くんやろか。田んぼの短辺プラス長辺で1枚あたり100m〜150m、1日平均10枚を2回歩いたとしても3㎞。いやいや、平均10枚ってことはないぞ。その程度で終わってないな。」と考えながら、引き返していると、老人が農道を歩いている。もともと体に潤い分が少ない老人だから、午前中の一仕事を終わらせると、汗は出尽くして、スルメのような姿で口を開けて歩いている。「早よ帰って休んでよ。」と声かけると、「おおきにぃ」と返すのが精一杯の様子。「こんだけ暑いと口も閉まらんわい。」と思いつつ、私もまた、ふらふらと歩き始めると自分の口も開いていることに気が付ついた。
昔の夏は、こんなに暑くなかったはずだ。

雨よ振ってくれ
誰も水が欲しいのだ

我田引水

この夏、ただとび切り暑いだけではなく、雨が降ってから次の雨までの期間が長い。そうなると田んぼ入れる水を、耕作者同士が取り合いになる地区が出てくるものだ。

そんな地区の中の、ある私の田んぼにどうしても水が当らない。私より二枚上の田んぼを耕作するおっさんが水を横取りしてしまうからだ。

田んぼに水を引くにもルールがあって、常時水が流されている主水路から水を分けるのは耕作者の役目。言い換えれば、分水されてそこに来ている水は、自分の田んぼの前を流れていても、誰かがそこまで引っ張ってきた水なので、断りなしにとってはいけない。しかし、どこにでもこんなおっさんがいるもので、自分の田んぼの前の水路に水が流れていれば盗りたがる。田んぼに水が満々とあろうが、よその田んぼが干上がっていようが構わず入れたがる。私がいくら入れようとしても、2枚上で水路をせき止め、1週間以上、水を入れかけては盗られのイタチゴッコの末、辛抱強い私もたまりかねて、エアコンが効く2トンダンプを物陰に停めて見張りをすることにした。

この日は、他の仕事をするつもりはまったく無い。見張りあるのみ。トラックの中ですることもないので、冷たい缶ビールを飲みながら見張っていると、2本目を飲み干すと同時にやってきた。嫁さんを軽トラの助手席に乗せて、田んぼの前に止まるや、嫁さんが駆け出て水を盗る。そして、盗るやいなや、嫁さん素早く亭主の軽トラに乗り込み姿をくらますという戦法だ。

「ヨーッシャー、まんまと引っかかりおったな、ねずみ小僧め!」、とばかりに勇んで、物陰からガラガラゴーとディーゼル音高らかに発進したら気付かれた。おっさん一目散に逃げる、逃げる。こら待たんかい、と追いかける。「ひとことガツンと注射を打ってやる。」約1キロのカーチェイス。僅かな時間だが楽しいことこの上ない。おっさん夫婦の慌てた様子が後ろ姿に見て取れる。「こりゃぁ相当うろたえとるなあ。」

僅かな農道カーチェイスだったが、軽トラの勝利。我が2トンダンプは敗北。逃げられたわけだが全然悔しくない。「まっ、いっか。農道で2トンダンプの不利は承知の勝負だ。はっはっはー。なんせこっちはゲーム感覚だ。ビール飲んでたら良い仕事ができた。はっはっはー。ここは農道、道路交通法も関係無かろ。はっはっはー。」

イノシシがやって来た

近年、イノシシや熊が人間様の縄張りを侵してきている。私の田んぼにもやって来て、稲を踏みにじる。

つい最近まで人間様は山へたき木を採りに、炭焼きをしに、また山菜を採ったりと、植林や伐採にと獣たちのすぐそばまで行って、縄張りを示していた。獣たちにしてみれば、散歩の途中に見かける2足歩行の、つるんとした顔の気持ち悪い生き物をもっと警戒していただろうに、今やその生き物たるや、昼間は会社とやらに行くようになると、夏はクーラー、冬はストーブとやらにあたり、元気に野山を徘徊しなくなった。獣たちは、人間の種としての衰えを察知して山際からじわじわと攻めて来ているのだ…、と思うと、口惜しい。

大事に育てている稲を守るために、金をかけて田んぼの周りにイノシシよけの電気柵をはるのが、手っ取り早くて確実な方法だろう。しかし、ひねくれ者の私には、すぐにそれへ走ってしまうのは、どうにも口惜しいものである。まるで敵を見るやいなや、城にたてこもる腰抜け侍のように思えてならない。今年はぐっと堪えて、イノシシと知恵くらべしてやろう!と決め込んだ。

そこで考えたのが発光灯、ディーゼルエンジン音に立小便。イノシシの視覚と聴覚と嗅覚に人間様の存在を知らしめる作戦。やつらに狙われた田んぼは2ha。これらに夜間の工事現場などに見られるピカッ、ピカッと光る発光灯を20本。ガラガラと音をたてるディーゼルエンジンを抱えた耕運機とバックホーを毎晩運転。そして、香りたつ我が放水マーキングを続けること30余日。ついに被害というに足らぬ程度で収穫にこぎつけることができた。

しかし、これほど手間ひまかけて、やつらとの知恵比べには勝ったと言えるのだろうか。あの手、この手と、もうへとへとだ。ああ、もう今年限りだ、こんなことは。

来年からは電気柵はって篭城だ。その費用20万円也。