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農業生産法人 株式会社 農樹

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農樹通信

2006年 夏

厄年

毎年1月、近所の厄善神社の祭りが近付くと、「お声」がかかるので、そこそこの金額のお供えを包んで、のこのこ出かけている。例年、受け付けで献金し、ご祈祷申し込み書に氏名・年齢を記入して、家内安全、無病息災、大願成就あたりに丸をつけ、手を合わせて帰ってくるのが常だ。
今年も、いつもと同じように書き込みをしていると、
「くまちゃん、本厄じゃ。」
と、受け付けにいるおっちゃんに言われて戸惑った。
「うっそー、俺って、今年は後厄やろ?」
すると、そこにいた2、3人が、
「お前、今年で42になるんじゃろ。」
「うん。」
「本厄じゃ。」
「うっそー?」
「うそって、お前、昭和39年生まれなんじゃろ。」
「うん。」
「ほらー、間違い無く本厄じゃ。」
「へえー。」
どうも、私は勘違いをしていたようで、当年42歳、今年が本厄っていうものらしい。そうは言われても、特別にご祈祷をお願いする術も、その気も無いまま、
「ありがたくも無いことを、知らされただけかよ?」
と、境内でふるまわれるぜんざいを、一杯すすって帰った。

ところが3ヶ月後に事件は起こる。
稲作シーズンが到来すると、種籾を処理する。育苗の土、肥料や資材が入荷する。種蒔きの準備、苗代の準備に人の手配をして、この春の作業工程が整いかけた4月。なんと長梯子からおっこちた。かなり冷え込んだ日の早朝、作業場の2階部分にあたる所に押し込んである資材の在庫を確認するために、長梯子をかけて登った。いつものように登った、登りきった…、すると、あらっ…。梯子の足もとが後ろにするする逃げて行く。どうもコンクリートの盤面が濡れていたようだ。梯子をかけた相手側を掴みかけたが、まだそこにいる梯子が邪魔をする。掴まり損ねて、あー、一巻の終わり。
レントゲンを見るなり医者は、
「手術しましょう。」
「はあ、今からですか?」
「何を言ってるんですか、手術となると手続きや検査をしますし、部屋の空き具合も確認しないといけません。」
「先生、部屋の空き具合って言うことは、入院しないといけないの?」
無知な私は、右足のくるぶしの骨が2箇所割れている写真を前に、局部麻酔程度で今から手術して、とっとと帰る気でいたものだから、全く話しがかみ合わない。関節に当るこの部分の骨折は、全身ないし、半身麻酔をかけて金属プレートで固定するのだそうな。そして、手術前のいろんな検査、手術、術後の処置などで、2週間の入院を要するのだそうだ。
「先生、今日のところは仮ギプスだけで帰ります。」
そう、この時、この春1回目の種蒔きと苗代作業が控えていた。尻上りに忙しくなるのに2週間も病院でおとなしくできるわけないもんね。
「後遺症がでる可能性が高い。」
と、言われても、
「私は稲作農家。これから、ひと山、またひと山と乗り越えていかないと、収穫の秋が来ないのです。」
そして、目の前のひと山を越えて病院へ向かった。
「どうですか、手術をしませんか?」
「2週間も仕事を空けるわけにいきません!」
医者は、リスク覚悟の上でならという前置きの後、
「1日で帰れるように手術を組んでみましょう。」
と、言われた。
「ほんと?先生、1日で。だったらこの日にやってください。絶対この日。」
手術日を指定する患者は珍しいようだ。
手術当日は、午後から入院、全身麻酔を施され、いちころで夢の中。手術は無事終了。麻酔から覚めてもボーっとしているところで、
「骨に金属プレートをあて、ビス8本打ち込みました。」
と、レントゲン写真を見せられてもピンと来ない。しかし、そのうち痛みが襲って来て、のたうちまわりながら、自分が手術したことを実感する。厄年、厄年、まさに本厄がこんなかたちで降りかかったわい。
翌朝、入れ替わり立ち代り、点滴やおしっこの管や計器を外しに来る看護師さん達から、
「本当にこれから帰るの。」
と、何度も尋ねられた。どうも私は、何もかも常識はずれの患者だったようだ。

プロ

ギプスでは靴を履けないので、足の型をとって特注した装具と言われる代物を右足に着けての春の作業は誠に不自由なものだった。それでも、周りの力添えを受けながら、6月上旬には、予定通り13ヘクタールの作付けを終わらせることができた。
そして、装具を外す頃には、田んぼの周りに電気柵を張り巡らし、続いては草刈りに、水管理に追われる日々が待っている。しかし、これがまさに過酷なリハビリの日々。一歩一歩が、まだたどたどしいのに、そこは畦道、石ころ道、平らなところが全く無いところを、傷めた足で歩く辛さ,格好悪さと言ったらない。世の中、平らなところがこれほど少ないとは思わなかった。それでも歩かないと仕事にならない。俺はこれで生きているんだから、歩かなければ…。
タイガースの金本選手は偉いもんだ。これで生きてますから、プロですからって、手の骨折れてても打席に立って、連続フルイニング出場記録更新中だぜ。格好いいのー。でも待てよ、俺だって手術日の1日休んだだけだぞ。まあまあ格好いいぞ。
しかしながら、仕事中、なにくそこれしきと、ぎりぎり歯を食いしばり過ぎたせいだろう、昔の虫歯治療の埋め物が、一時に3つも外れちまった。くそー、かっこわるー。